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個人事業主が結ぶ契約の種類と違い、締結の注意点について

2022.04.22

引地修一

個人事業主やフリーランスの多くの方は、クライアントと仕事を受注するときに何らかの契約を結んでいると思います。しかし、皆さんはその契約の中身をキチンと理解できているでしょうか?

個人事業主が結ぶ主な契約には「(準)委任」と「請負」などがありますが、それぞれの違いがわかっていないと、思わぬトラブルの原因となります。

この記事では、「(準)委任」と「請負」の契約の違いや、契約を守らなかった際のペナルティーについて解説いたします。

「(準)委任」と「請負」契約の違い

個人事業主の方がクライアントと業務に関する契約を結ぶ場合、そのほとんどが「(準)委任」か「請負」のどちらかとなります。なぜ、この2つに限定されるのでしょうか?

現在の民法では、全部で13種類の契約の種類が定められていますが、労務に関する契約はこの中の「雇用」「請負」「委任」の3つとなっています。

このうち個人事業主の方には「雇用」は関係ないため、通常の業務契約では「請負」か「委任」のどちらかが適用されることになります。では、この2つの契約はどのように内容が異なるのでしょうか?

請負契約について

「請負」については、民法で次のように規定されています。

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

(民法632条)

そして、その報酬については、次のように定めています。

報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項(労務の終わったあと)の規定を準用する。

つまり、請負の契約とは、受注者側が「仕事を完成することを約する」ことが契約のポイントとなります。例えば、これに該当する業務としては、Web制作 ・広告制作 ・システム開発 ・セミナー講演などが該当します。

なお、報酬の支払いについては、完成品の引き渡しと同時にと定められていることから、原則「後払い」となります。そのため、業務が9割できていても完成するまでは報酬はもらえないこととなります。

委任契約について

一方、委任については民法で次のように規定されています。

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

(民法643条)

また、報酬については以下のように定めています。

受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。

委任契約とは、法律行為をともなう事務処理を委託するときに使われる契約形態です。

委任契約では委任された仕事の遂行について受注者側は義務を負いますが、その完成については義務を負いません。仕事の結果・成果物ではなく、どういった業務を提供するかにつきコミットします。

このように仕事の完成を約束しなくとも、契約が成立する点が請負との大きな違いとなります。例えば、法律や税務顧問、店舗の開発業務やソフトウェアの開発の要件定義などがこれに該当します。また、原則として報酬の支払いを約束しなくとも委任契約は成立します。

なお、民法改正により、委任契約は2種類に分けられたため、そのどちらかに該当するかで報酬が決まることとなりました。

① 履行割合型

作業量や労働時間、工数の履行の割合に応じて報酬を支払うものであり、この型の場合には、事務処理が成功したか否かにかかわらず、作業量等に応じた報酬を委任者は支払う必要があります。

② 成果完成型

依頼した事務処理が完成した際に報酬を支払うものです。この型の場合、受任者がどれだけ処理に時間を要していても、成果を達成できなかった場合には報酬を得られません。

なお、委任と準委任の違いについてですが、

  • 委任契約・・・法律行為を委託する契約
  • 準委任契約・・・事実行為(事務処理的な業務)を委託する契約

となりますが、どちらについても同じ法律が適用されます。

準委任契約の例としては、システム保守、運営、リサーチ、研修、DM発送処理などがあげられます。

以上のように請負と委任の契約の違いをまとめると、以下のようになります。

  • 請負は、仕事を完成させることが条件。これに対して、委任は受任者が委任者から委託された(準)法律行為を了承するだけで契約が成立する。
  • 報酬については、請負は報酬を支払うことが条件。これに対して、委任は無報酬でも契約が成立する。
  • 報酬の支払い時期については、原則、どちらも後払い。

Webフリーランスはどのような契約になる? 

結論から言うと請負契約・準委任契約どちらのケースもあります。

Webデザイナーの例で言えば、30ページのデザインをしますという場合は30ページのデザインを制作することで完了する請負契約。月に50時間のデザインをしますと言う場合は50時間分のデザイン作業を提供する準委任契約になり、この場合はどんなデザインを何ページするか、完成するかは問われません。

ただ半年〜1年かかるプロジェクトで請負契約をすると請求できるのがかなり先になってしまい、その期間に生活費や運転資金が尽きてしまうリスクがあるので、長期間のプロジェクトの場合は要件定義と制作のように分けて納品したり、見積額の何%かを着手金としてもらうといった契約をするようにすると良いでしょう。

契約に違反した場合の対応について

債務不履行の場合の責任

請負契約において債務不履行や、契約の目的物について不完全な部分がある場合には、前者については債務不履行責任を、後者については契約不適合責任を負う可能性があります。

請負人の義務は仕事を完成させることのため、その完成ができなかったときは原則として、請負人は債務不履行責任を負います。

一方、委任契約の場合、受任者の義務は善管注意義務(民法644条)をもって、委任事務の処理をすることとなります。そのため、成果完成型の委任契約の場合には、成果が達成できなかったとしても、善管注意義務を果たしてさえいれば債務不履行責任を負いません。

請負人は、「仕事」を完成できなかった場合には、報酬を受け取れないだけではなく注文者に生じた損害を賠償する義務を負うという点で、成果完成型の委任契約よりも重い責任を負っているということができます。

契約不適合による責任

請負では、契約の目的に問題がある場合には、売買契約の規定が準用されます。これを「契約不適合責任」といいます。

以前に瑕疵担保責任と呼ばれていましたが、今回の民法改正により「契約不適合責任」と名称が変わりました。

そのため、注文者は、仕事の目的物に契約不適合がある場合、①履行の追完の請求(民法562条1項)、②代金の減額の請求(民法563条1項、2項)、③損害賠償の請求(民法564条、415条)、④契約の解除(民法564条、541条、542条)などを請負人に請求することができます。

なお、債務不履行と契約不適合の違いは、原則として、工事が未完成であれば債務不履行責任の問題、工事が既に完成しているなら契約不適合責任の問題となります。

また、請負においては請負人の責任の期間についても改正がされました。

これまでは、仕事の目的物に瑕疵があった場合に、「注文者が瑕疵の修補または損害賠償の請求および契約の解除を求めるときは、目的物の引渡し時または仕事の終了時から1年以内にしなければならない」とされていました。

しかし、これでは注文者の負担が過大であるとの批判を受け、「注文者は、契約不適合を「知った時」から1年以内に通知をしなければ、履行追完請求、報酬減額請求、損害賠償請求および契約解除をすることができない」と改正され、注文者側に有利な内容となりました。(改正民法637条1項)

ただし、「目的物の引渡し時または仕事の終了時において、請負人が契約不適合を知り、または重過失により知らなかった場合」には、上記の期間制限は適用されません(改正民法637条2項)

一方、委任契約にはこのような契約不適合責任に関する規定はありません。

しかし、委任契約の場合には、受任者は善管注意義務を負っているため、受任者の責任により業務内容について問題が発生した場合には、委任者から善管注意義務違反による損害賠償を請求されたり、債務不履行により契約を解除されたりする可能性があります。

契約を締結するときの注意点

個人事業主の方が業務の契約をするときには、次の点について注意する必要があります。

  • 業務の形式や内容
  • 報酬額、支払条件、支払い時期、支払い方法
  • 処理期限
  • 制作物の所有権の所在と所有権移転の時期
  • 契約解除の条件、違約金や損害賠償の発生条件

なお、違約金や損害賠償については、「違約金等が生じる具体的なケース」、「損害賠償の範囲」などの他に、「契約の内容が相手方に一方的に有利なものとなっていないか?」や、「違法な内容を含んでいないか?」にも確認が必要です。

もし、請負の問題について誰にアドバイスをもらえばよいかわからないときは、その内容が一般的なものである場合には弁護士、司法書士、行政書士のいずれでも構いません。

しかし、自身の具体的な案件に関してアドバイスが必要な場合には弁護士にご相談ください。

※ 行政書士は紛争となっている事案についてのアドバイスをすることはできません。また、司法書士の場合には、アドバイスをする場合に損害額(訴額)に応じた制限があります。

まとめ

請負契約と(準)委任契約については、以上のような違いがあります。しかし、契約書に委任契約と書いてあるから必ずしも委任の規定が適用されるわけではなく、その実態が請負であれば請負の規定が適用されることもあります。また、契約全般に通じる注意事項もあるため、これらについても事前に確認することをおすすめします。

この記事を書いた人


WRITER

引地修一

Ichigo(一期)行政書士事務所代表 / 行政書士 / 宅地建物取引士 / 事業再生士補 【著書】 『確実に公的創業融資を引き出す本』、『次の決算に間に合う銀行格付けup術』、『飲食店開業のための公的融資獲得マニュアル』 創業支援・公的融資支援を中心に行政書士兼ライターとして活躍。融資・経営・補助金などをメインとした記事を執筆しています。