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個人事業主の方にとって常に悩みのタネとなるのが、「税金」だと思います。個人事業では法人よりも節税がしにくいですが、税金がかかるポイントや経費の使いかたなどを知っておけば効果的に節税することが可能です。ここでは個人事業でかかる税金のポイントや経費について解説します。
税金は、種類ごとに課税される元の金額が違う
個人事業をされている方については、さまざまな種類の税金がかかります。
その代表的なものとしては、所得税、住民税、国民健康保険料などがありますが、その際に注意しなければならないのが、それぞれについて税金がかかる大元が異なるということです。まず、個人事業の場合、クライアントからもらった報酬が「売上」となります。そして、この売上げから経費を差し引いたものが「所得」となります。
ここまではすべての税金を計算する上で共通しているのですが、この「所得に対して税金がかかるのか?」それとも「所得から各種の控除を差し引いた額に税金がかかるのか?」は税金の種類により異なります。代表的な税金である所得税や住民税、国民健康保険では、次の対象に税金が課されることとなります。
所得税
事業所得から基礎控除や配偶者控除他を差し引いた額
住民税
均等割額 = 原則5,500円/人
所得割額 = 事業所得から基礎控除や配偶者控除他および税額控除を差し引いた額
※均等割り額:所得に関係なくかかる均一の税金
※税額控除:寄付金控除など一定の行為をした場合に適用される控除
国民健康保険料
事業所得から基礎控除のみを差し引いた額
細かな計算内容は省略しますが、ここで注意していただきたいのが、それぞれの税金ごとに課税の元となる金額が異なるということです。たとえば所得税の場合は、所得から以下の15種類の控除をした額が課税の対象額となります。
<所得税控除の種類>
雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除
参考:No.1100 所得控除のあらまし|国税庁
また、住民税では、14種類の控除の他、税額控除も利用することができます。
<住民税控除の種類>
雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除
参考:個人住民税 | 税金の種類 | 東京都主税局
しかし、国民健康保険料の場合には、所得から差し引けるのは原則、基礎控除の43万円だけとなります。そのため、国民健康保険料を節税しようとすれば、基本的には「売上げを減らす」もしくは「経費をたくさん使って所得額を減らす」ということしかできません。
このように、税金ごとに課税の元となる金額に大きな違いがあります。
そのため、節税対策をする前に「この対策はこの税金の節税に役立つのか?」、「この税金を安くするには所得を下げるのか?それとも、控除を増やすのか?」ということを、税金の種類にあわせて考える必要があります。
個人事業主が経費にできるものとは?
以上のように個人事業主の場合は売上げから経費を差し引いたものが所得となるわけですが、それではこの経費とは具体的にどのようなものをいうのでしょう?
これについて、国税局では経費を次のように説明しています。
「事業所得、不動産所得及び雑所得の金額を計算する上で、必要経費に算入できる金額は、次の金額です。
1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」
かなり書き方があいまいなのでこれだけではわかりづらいですが、一般的には次のようなものは経費として認められます。
- 原料や材料などの仕入れ代
- 家賃
- 通信費
- 消耗品費
- 研修費
- 交際費
- 租税公課
- 水道光熱費
- 店舗の内装、外費
- 備品
- 新聞図書費
- 販売促進費
- 車両費(事業用の車の購入費)
しかし、これらはいずれも事業に使った経費であることが重要です。事業以外の目的で使ったものについては「自家消費」として経費には認められません。そのため、税務署から聞かれたときにきちんと事業との関連性を説明できるようにしておくことが重要となります。
支払調書とは?
支払調書とは60種類以上ある法定調書のひとつで、法人や個人に対し「誰に、どんな内容で年間いくら支払ったか」を税務署に報告するための書類です。
支払調書を受け取るフリーランス側にとっては、支払われた報酬の内訳や支払先などが簡単にわかるため、確定申告書の作成に役立ちます。支払調書には、いくつかの種類がありますが、主なものは以下の4つとなります。
- 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
- 不動産の使用料等の支払調書
- 不動産等の譲受けの対価の支払調書
- 不動産等の売買又は貸付のあっせん手数料の支払調書
このうちの報酬等の支払調書は、弁護士、ライター、デザイナーなどに支払う報酬や講演料について作成するものなので、個人事業主の方には一番なじみが深いものといえます。
なお、注意したいのが、支払調書は税務署に対しては必ず提出しなくてはなりませんが、報酬を支払った側に交付する義務はないということです。とはいえ、1月〜2月に送られてくるのが一般的ですが、義務ではないため発行を強要することはできません。
また、支払調書が相手から発行されない場合の処理としては報酬の支払者が法人の場合は、源泉徴収された後の金額として処理します。なぜなら、法人の場合は、必ず源泉徴収する義務があるからです。
支払者が個人の場合には、源泉徴収義務者かどうかを確認する必要があります。なぜなら個人の場合には、源泉徴収義務が免除されているケースがあるからです。
源泉徴収額は、報酬額が100万円以下の場合は「10.21%」、100万円を超えるときは「20.42%-102,100円」となるため、支払調書がないときは、受け取った金額から逆算して、元の報酬総額を計算します。
なお、源泉徴収票と異なり、支払調書は確定申告の際の添付書類とされていないので、添付せずとも金額さえ間違っていなければ問題ありません。
レシートと領収書、どちらを選ぶべきか?
事業で経費を使ったことを証明するためには、「レシート」か「領収書」が必要となりますが、これはどちらをもらった方がよいのでしょう?
実はこれはどちらでもよいこととなっています。レシートや領収書については、以下の5つの項目が記載されていれば、どちらでもよいこととされています。
- 宛名(領収書の場合)
- 発行者
- 年月日
- 取引の内容
- 金額
レシートでもらった場合は、宛名が記載されていませんが、以下の業種からもらったレシートについては宛名がなくとも、経費として認められることとなっています。
- 小売業
- 飲食店業
- タクシー業
- 駐車場業
- その他これらに準ずる事業で不特定多数の者に資産の譲渡等を行うもの
したがって、レシートでもたいていの業種で経費の資料とすることができますが、判断に迷う場合には領収書をもらっておくのが安全です。
個人事業主ができる節税対策とは?
個人事業主は法人よりも節税がしにくいといえますが、それでも以下のような対策をすることによりかなりの額の節税をすることが可能となります。
できるだけ必要経費を計上する
適切に必要経費を計上できれば、その分「所得」の額が低くなるため、ほとんどの税金の節税に有効となります。そのためには、領収書を必ずもらう癖をつけましょう。
しかし、中には領収書が出ない、もらい忘れたということもあると思います。このような場合でも「自分で出金伝票を作成する」、「明細書を証憑の代わりにする」のいずれかの方法によれば、これを経費として認めてもらえることとなっています。ただし、これらの場合には、日付、支払先の社名、金額、内容が記載されているかに注意が必要です。
青色申告を活用する
確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があり、それぞれメリットが異なりますが、節税を考えるのであれば、青色申告を選択すべきです。
青色申告には様々な控除が受けられる、3年間の赤字の繰り越しができるといった特典がありますが、白色申告ではほぼそのようなメリットはないため、多少の手間をかけてでも青色申告をすることをおすすめします。
小規模企業共済への加入
小規模企業共済とは、公的機関である「独立行政法人中小企業基盤整備機構」が運営している共済です。
共済金を1,000〜70,000円の範囲で月々積み立てることができ、積み立てた共済金は解約時や死亡時に受け取ることができるだけでなく、その全額を経費とすることができるため、その分節税することができます。
なお、小規模共済金には「前納」制度があり、これを活用した年払いができるので、売上に応じて積立金を調整しやすいというメリットもあります。
保険の活用
個人事業主が、「生命保険」「介護医療保険」「個人年金」へ加入し、保険料を払った場合には各保険につき最大4万円の所得控除を受けることができます。そのため3つすべてに加入している場合には最大12万円の控除を受けることができます。
30万円(最大合計300万円)までの一括償却を利用
青色申告をしている場合には、通常10万円までしか認められない固定資産の一括償却が1件あたり30万円・合計300万円まで認められます。
本来であれば、固定資産はその耐用年数に応じて償却する必要があるため、1年間で経費にできる(償却)金額は少なくなりますが、この特例を利用することで30万円までであれば、全額をその年の経費にできるため節税となります。
「iDeCo」を活用
iDeCoは私的年金の一種であり、年金を自分で積み立てておく制度です。
このiDeCoにおける掛金は、すべて所得控除の対象となるため、金額が大きいほど節税となります。
自宅の家賃や光熱費の一部を経費にする
自宅を事務所として利用している場合には、そこで支払った家賃や水道光熱費の一部を経費にすることができます。しかし、コレが認められるためには次の2点をクリアーできていることが条件となります。
- 青色申告をしていること
- 家事按分がされていること
まず、自宅家賃等を経費にするためには、まずは青色申告をしていることが前提となります。白色の場合にはこの特例は使えないため注意してください。
そして次の条件である家事按分とは、経費を家事で使った分と事業で使った分を比率で分けることをいいます。
たとえば100㎡の自宅のうち25㎡を仕事専用で使っている場合、家賃の1/4を経費にできるというのが家事按分となります。また、水道光熱費についても月額料金が15,000円の場合、そのうち事業で使った分が5,000円ならば5,000円を経費として計上できます。
なお事務所を借りていて、なおかつ自宅でも仕事をしているといった場合でも、自宅の家賃等の一部を経費とすることは可能です。
しかし、この場合には単に面積で割って計算するのではなく、さらに使った時間なども考慮しなければならないため、しっかりと税務署に説明できるように根拠と算定方法を明確にしておく必要があります。
まとめ
個人事業では節税ができる方法が限定されているため、さまざまな手段で対策することが重要となります。しかし、税務署ではこれらの方法は教えてくれないため
- 自分で調べるか税理士などのパートナーを見つける
- 売上悪化、長期入院などのリスクにそなえて積立などの資産確保も考えておく
- 所得はローンなどの審査に関わるので減らすことによるデメリットもある」
などを念頭に置いて対策を行うようにしましょう。
この記事を書いた人
WRITER
引地修一
Ichigo(一期)行政書士事務所代表 / 行政書士 / 宅地建物取引士 / 事業再生士補 【著書】 『確実に公的創業融資を引き出す本』、『次の決算に間に合う銀行格付けup術』、『飲食店開業のための公的融資獲得マニュアル』 創業支援・公的融資支援を中心に行政書士兼ライターとして活躍。融資・経営・補助金などをメインとした記事を執筆しています。