freenote.work Webフリーランスのためのお役立ちメディア

SHARE

webcreative


フリーランスが安心して働くために知っておきたい下請法

2022.05.06

引地修一

個人事業主やフリーランスの方には、「取引先がなかなか支払いをしてくれない」とか「代金を一方的に引き下げられた」という経験をお持ちの方も多いと思います。そんな時の解決に役立つのが「下請法」です。しかし、フリーランスで働いている方の中には、あまりよく知らないという方も少なくないようです。この記事では、下請法の概要や発注者側の義務、実際の現場での利用法について解説いたします。

下請法の概要について

下請法の正式な法令名は「下請代金支払遅延等防止法」です。親事業者による下請け業者への「支払の遅延」や「代金の引き下げ」といった不利益を防ぐために作られた法律です。しかし、一般的な意味での元請けや下請けの概念とは異なることに注意が必要です。

下請法が適用される業種と事業規模

下請法が適用される業種

この法律では、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」の4種類の業種について、親事業者と下請事業者の間で行われる取引を規制するものです。

したがって、この業種に該当しない取引や、親事業者と下請事業者の関係とならない企業との取引は対象とならないことに注意が必要です。なお、通常のWeb制作は4つの業種の中の「情報成果物作成委託」に該当します。

この「情報成果物作成委託」とは、プログラムや映像コンテンツ、デザイン、記事といった、情報成果物の提供や作成を営む事業者が、他の事業者にその作業を依頼することを指します。

たとえば、「ソフトウェア開発業者が、ユーザーから開発を請け負ったソフトウェアの設計書の作成を他のソフトウェア開発業者に委託する」ケースなどがこれにあたります。

下請法が適用される事業規模

次に下請法が適用される範囲は、以下の業種ごとに定める事業規模に該当するかで異なります。

「物品の製造・修理委託、プログラム作成や運送、物品の倉庫保管・情報処理」の場合

親事業者下請事業者
資本金3億円超資本金3億円以下(個人を含む)
資本金1,000万円超3億円以下資本金1,000万円以下(個人を含む)

「情報成果物作成委託、役務提供委託」の場合

親事業者下請事業者
資本金5,000万円超資本金5,000万円以下(個人を含む)
資本金1,000万円超5,000万円以下資本金1,000万円以下(個人を含む)

たとえば資本金1,500万円のWeb制作会社が個人事業主に情報成果物の作成を委託した場合には下請法の対象となりますが、個人事業主が発注者となる場合には、下請け業者の規模にかかわらず下請法の適用はないこととなります。

下請法により親事業者が遵守すべき義務

下請法により、親事業者は以下の義務を遵守しなければならないものとされています。

書面の交付義務(下請法3条)

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければなりません。

取引記録の書類の作成と保存義務(下請法5条)

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、下請事業者の給付、給付の受領、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録を作成し、2年間保存しなければなりません。

支払期日を定める義務(下請法22

下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して、六十日の期間内で、かつ、できる限り短い期間内に定めなければなりません。

遅延利息の支払い義務(下請法42

親事業者は、下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかったときは、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過した日から支払をする日までの期間について、未払金額に14.6%を乗じて額を遅延利息として支払わなければなりません。

親事業者の禁止行為

親事業者には、次の11項目の禁止事項が課せられています。なお、下請事業者の了解を得ているときであっても,これらの規定に触れるときには,下請法に違反することとなります。

禁止行為

  1. 受領拒否(第4条1項1号)  
    注文した物品等の受領を拒むこと。
  2. 下請代金の支払遅延(1項2号)          
    下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。
  3. 下請代金の減額(1項3号)   
    あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
  4. 返品(1項4号)      
    受け取った物を返品すること。
  5. 買いたたき(1項5号)          
    類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
  6. 購入・利用強制(1項6号)   
    親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。
  7. 報復措置(1項7号)
    下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
  8. 有償支給原材料等の対価の早期決済(2項1号)
    有償で支給した原材料等の対価を,当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。
  9. 割引困難な手形の交付(2項2号)      
    一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
  10. 不当な経済上の利益の提供要請(2項3号)      
    下請事業者から金銭,労務の提供等をさせること。
  11. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(2項4号)   
    費用を負担せずに注文内容を変更し,又は受領後にやり直しをさせること。

違反時の勧告や罰金

親事業者が受領拒否、下請代金の支払遅延などの禁止行為をした時には、指導や是正勧告の対象となります。また、必要な書面の交付・保存をしなかったときは、50万円以下の罰金となります。

下請法の活用法について

下請法違反行為があった場合の交渉材料として活用

親事業者との取引において、下請法違反の行為があった場合には、まずはその行為がどの禁止行為に該当するかを特定し、間違いがないかを確認しましょう。自分だけで判断が難しい場合には、専門家や下記の下請けかけこみ寺などの利用をおすすめします。

そのうえで、違反の確認ができた場合には、その旨を相手に伝え、十分に協議し、双方で納得することが重要です。また、できれば協議内容を書面化しておきましょう。 

「委託先に単価の引き下げを行う際に、すでに発注済みの分についても、さかのぼって引き下げた単価を適用することについて委託先と合意していた」

「納品後6か月が経過した後に瑕疵を見つけたため返品していた」

「発注先に対して納品する商品と同一の商品をサンプルとして無償で提供させていた」

下請法違反の事例の中には、上記のケースのように「受注者側と合意しているから問題ないと思った」などの勘違いをしているものが多くみられるため、下請法の主旨を説明して交渉の材料としましょう。

話し合いで解決できないときは「下請けかけこみ寺」を利用

個人事業者などが親事業者から「代金の未払い」「支払い遅れ・減額」などをされた場合には「下請けかけこみ寺」の利用を検討しましょう。

下請かけこみ寺とは、全国48か所に設置されている個人事業主や中小企業が抱える下請法に関するトラブルをサポートする国の相談窓口です。下請法に関する相談の他、裁判外紛争解決手続き(ADR)に関する支援なども行っています。

参考サイト

自社でも下請法の適用に注意する

自社が情報成果物作成委託を行っており、資本金額が1,000万円を超える企業の場合には、自社自身が下請法の規制の対象となるため、違反とならないように注意が必要です。

まとめ

下請法は親事業者と下請事業者間の取引を規制するものですが、すべてのケースで適用になるわけではありません。とくに個人事業主の場合は、親事業社となることはありませんが、下請事業者として保護の対象となります。

なお、親事業者について必要書類の不交付や支払いの遅延などがあった場合には規制の対象となるため、そのような場合には専門家または下請かけこみ寺に相談することをおすすめします。

この記事を書いた人


WRITER

引地修一

Ichigo(一期)行政書士事務所代表 / 行政書士 / 宅地建物取引士 / 事業再生士補 【著書】 『確実に公的創業融資を引き出す本』、『次の決算に間に合う銀行格付けup術』、『飲食店開業のための公的融資獲得マニュアル』 創業支援・公的融資支援を中心に行政書士兼ライターとして活躍。融資・経営・補助金などをメインとした記事を執筆しています。