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個人事業主なら最低限知っておきたい契約のこと

2022.04.05

引地修一

Webサイトの制作者やライターの方などにおいては、仕事を引き受けるときに契約書の取り交しをしないケースが少なくありません。しかし、契約書の締結は、事前に予想されるトラブルを事前に防止するだけでなく、実際に紛争が生じたときに自分の身を守るものとなります。

この記事では、個人事業者の方にとって重要となる契約や、契約書中に入れるべき条項、注意点などについて解説いたします。

契約の効力や種類について

契約を結ぶ意味

当事者間で何らかの約束をした時には、契約書を交わすのが一般的ですが、契約を結ぶことにより以下のような効果が期待できます。

  • 契約内容の明確化や理解の正確化が図れる。
  • 契約内容に関する紛争、蒸し返しの防止となる。
  • 紛争や訴訟が起きたときの証拠とすることができる。

契約を結ばずに行った合意は、内容についてお互いが勘違いしていたり、相手が覚えていないということになりやすいですが、契約を締結して契約書を残すことでこれらのトラブルを防止することができます。

個人事業で重要な契約の種類

民法では13種類の契約が定められていますが、個人事業主の方が業務をする上で締結する機会の多い契約の種類には、次のようなものがあります。

請負契約

請負契約とは、仕事の成果物に対して対価を支払う契約のことで、仕事を完成することが条件となります。また、この場合には、業務の目的物をクライアントに引き渡す必要があります。
例)Web制作 ・システム開発・広告制作など

委任契約・準委任契約

(準)委任契約とは、当事者の一方が法律または事実行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約です。この場合には、業務をすることが目的であり、目的物の引き渡しは必要ありません。
例)コンサルティング業務・店舗の運営業務・留守中の管理契約など


賃貸借契約・使用貸借契約

賃貸貸借契約は、機材、備品、ソフトウェア―などを「有料」で貸し借りする契約です。これに対し、使用貸借は「無償」で貸し借りをする契約となります。これらの契約は、個人事業主がクライアントと業務に関する契約をした際に必要となる物品の貸与や提供の際に必要となります。

電子契約とは?

「電子契約」とは、電子データにより作成された契約書に電子署名をおこなう方式の契約を指します。これまでは、紙の契約書に印鑑を押すのが一般的でしたが、デジタル化の進展により、電子契約も正式な契約方法として認められました。(電子署名法、電子委任状の普及の促進に関する法律など)

電子契約と紙の契約とでは、締結の形式が異なるだけで、契約の法的拘束力についてはどちらも変わりません。ただし、以下の一部の契約書類については、電子契約によることができないため注意が必要です。

  • 労働者派遣契約(労働者派遣法26条1項、同施行規則21条3項)
  • 宅地建物売買等媒介契約(宅建業法34条の2第1項)
  • 定期借地契約・定期建物賃貸借契約(借地借家法22条、38条1項)

なお、一般的な継続基本契約を締結する場合には4,000円の収入印紙が必要となりますが、電子契約で作成した場合には不要となります。

契約の内容について

基本契約と個別契約書

「基本契約書」とは、継続的な取引の基本的な条項についてまとめた契約書です。一般的には、契約の目的や範囲、契約不適合責任、期間、解約条項などが記載されます。

これに対して、個別契約書とは、基本契約の中における個別の取引について、具体的な発注数や金額、納期などを定めたものとなります。

なお、基本契約と個別契約とで同じ内容を定めている場合には、個別契約の内容が優先します。

NDA秘密保持契約書

NDAは、non-disclosure agreementの略で「秘密保持契約書」と呼ばれます。NDAはクライアントが受注者へ提供した情報を他に漏らしたり、悪用したりすることを防ぐために結ばれます。これに違約した場合には、損害賠償請求や契約解除の対象となる他、契約の有効期間内においてはその案件を実績として公開ができなくなるなどの点に注意が必要です。

著作権の譲渡等の条項

著作物を制作したときには、「著作権の譲渡の可否」「人格権の不行使」について明記しておく必要があります。これらがあいまいなままだと、「著作権の譲渡ができない」、「修正や変更ができない」などのトラブルのもととなります。

解除条項

解除条項とは、契約に定めた一定の事項が発生した場合には契約を解除できるという内容の条項です。民法の規定では契約解除ができる場合が少ないため、それを補う目的で締結されます。契約解除のケースとしては、以下のものがあります。

  • 公租公課・租税の滞納処分があったとき
  • 業務停止や不渡り処分があったとき
  • 裁判所による仮差押えや仮処分、強制執行、破産や清算、民事再生手続きなどがあったとき
  • 重大な信用毀損行為や虚偽があったとき
  • 一定の契約違反や債務不履行があったとき

なお、契約解除条項においては、違約した場合には即時解除するとなっているケースがほとんどですが、実際の裁判では即時解除は認められにくく、ある程度の時間をおいて催告をするなどが必要となります。

専属的合意管轄の確認

専属的合意管轄とは、契約の当事者が、その契約について紛争が生じた場合の裁判所をあらかじめ決めておくことをいいます。この合意がされた場合は、原則としてその裁判所で裁判が行われるため、合意した裁判所が相手の住所地で遠方の場合には、多額の費用や時間が必要となるため注意が必要です。

契約を締結する際の注意点

契約は口頭でも成立する

契約の方式には、大きく分けて「要式契約」(書面の作成などが必要となる契約)と「不要式契約」(それ以外の契約)の2種類がありますが、日本においては保証契約などの一部を除き「不要式契約」がほとんどとなっています。

そのため、原則として、契約は書面などによらなくとも口頭の合意だけで成立することとなります。したがって、契約に関するやりとりをする場合には、うかつなことを約束してしまうと、後日、それが契約内容として認められ不利となってしまうことがあります。

契約書はハンコがなくとも有効

通常、契約書を作るときには署名箇所に印鑑を押印しますが、これは実印である必要はなく、また押印がない場合でも自書があれば有効に成立します。

しかし、実印を押した場合にはより本人の意思にもとづいてつくられたという信用力が高まるため、裁判などでも契約をしたという事実が強く推定されることになります。

契約後のことも考えておこう!

契約書を締結する際に、相手の信用力や経済状況に不安がある場合には、「できるだけ違約時のペナルティを重くする」、「担保や保証人を用意させる」などといった、万が一の場合に備えた対応が必要といえます。また、トラブルになったときに備えて、事前に「相談ができる機関を調べておく」などの準備もしておいたほうがよいでしょう。

まとめ

個人事業主が業務をする場合には、その取引の内容にあった契約を締結しておくことが重要です。契約をすることにより、お互いの求める内容がより明確になるとともに、トラブルになったときの有力な証拠となります。

ただし、契約にはいくつもの種類があり、また、そこへ盛り込む条項によっても内容が大きく違ってくるため、契約書を作成するときにはそれらの意味をよく考え、自分に不利なものとならないよう注意してください。

この記事を書いた人


WRITER

引地修一

Ichigo(一期)行政書士事務所代表 / 行政書士 / 宅地建物取引士 / 事業再生士補 【著書】 『確実に公的創業融資を引き出す本』、『次の決算に間に合う銀行格付けup術』、『飲食店開業のための公的融資獲得マニュアル』 創業支援・公的融資支援を中心に行政書士兼ライターとして活躍。融資・経営・補助金などをメインとした記事を執筆しています。